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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

オリビエと言う日本人

                         ≪十月三日≫     -爾-

   アフリカボケの二人と別れて、バス・ステーションへ向かう。
 途中、また例のおかしな、おかしな、尊敬するフランス人”オリビエ”に出会う。

       オリビエ「やー!どちらへ?」

   もちろん、日本語。

       俺   「これからトルコへ行きます。」
       オリビエ「おー!そうですか。それでは、お別れですね。お元気で!」

   オリビエが手を差し出す。

       オリビエ「さようなら、又逢いましょう。日本で。」
       俺   「有難う。君こそ無事日本へ行けますよう。」
       オリビエ「アナタもね。」

   旅とは、実にこの繰り返しなのだ。
 そして、いろんな人たちの人生がそこにあることを、確かめながら旅は続く。
 バックパックは相変わらず、重く肩にくい込んでくる。
 バス・ステーションのある広場は、Sepha.Sqから歩いてもすぐのところに、見つけることが出来た。
 大きなバスとそれに乗り込もうとする人で、ごった返している。
 とにかく、バス網が発達している国で、どこに行くにも、西ドイツ製の大きなバスが走っている。

   インフォメーションで聞くと、出発が午後六時で、バス・シートNOは20番と教えてくれた。
 何度、聞きなおしてもこれだけしか聞き取れない。
 次から次へとバスが発車していく。
 チェンマイへ行くときに乗ったような、トイレつきのバスもある。
 しかし、大きな相違が一つ或る。
 チェンマイ行きのバスは、世界一の美女が二人も車掌として乗っていたことだ。

   世界中、いろんなところで、いろんなバスが走っているだろうが、バンコック~チェンマイ間を走っているバスにかなうバスはないだろう。
 ・・・・・などと思いながら、インフォメーションのある部屋の隣に、設けられている待合室で出発を待つ事にした。

                          *

   定刻の十五分前。
 食料とタバコを買ってバスに乗り込む。
 もうイランのお金も必要なくなるので、ずいぶんと使ってしまった。
 バス・シートは前から二番目。
 いつの間にかもう満室だ。

   午後六時十分。
 定刻より十分遅れて、バスが動き出した。
 暗くなったテヘランの夜の街をバスは走る。
 車の混雑は相当なもので、街中を抜けるまで、バスはノロノロと進んだ。
 さすがイランの首都だ。
 イランの道路は、ロータリー方式の交差点を採用していて、左折する時も直進するときでも、安全地帯をぐるりと一回りしてから、次の道へと入っていくのだ。
 日本でも、一時期だが、ロータリー方式を採用していた事があるそうだが、俺の記憶にはあまりない。

   バスはノロノロと進む。
 街を抜けるまでの時間を考えると、テヘランの町の大きさを感じさせる。
 どのくらい走ったのだろう。
 やっと郊外に抜けたと思い、テヘランの町の灯に見入っていたとき何かが起こった。
 なにやら大きな音を立てたかと思うと、バスは路肩に停まった。

       俺 「うむ?パンクか?」

   乗客たちは、思い思いに窓から顔を出して、外の様子を伺う。
 乗客たちがバスを降りはじめた。
 右手は空き地だろうか、背の低い草が広がっている。
 左側の広い道路は、ライトを点けた車がひっきりなしに通り過ぎていく。

   乗客には(少なくても俺には)何の説明もない。
 そうしているうちに、助手が道路に入って手を上げ、大声で叫びながら車を止めにかかった。
 時々停ってくれるバスの運転手となにやら話をしているが、(すまないな!)とでも言うように、二三分話をするとバスは走り去ってしまう。
 どうなっているのか、まるで分からない。

   空を見上げると、暗くなった夜空に、宝石箱をひっくり返したような満天の星と、大きな満月が煌煌と輝いているのが見える。
 (どうやら、ちょっとやそっとでは動きそうもないな。)
 バスの窓から外を眺めていると、乗客たちが一列に並んで立ち小便をし始めた。
 運悪くこの草原が、公衆便所となってしまった訳だ。
 我輩もと、バスを降り、タイヤをいじっている、バスの運ちゃんを尻目に、月と星の輝きを見ながら、気持ちの良い排泄を済ませる事にした。

   パンクだ。
 バスの中に戻って、タイヤの修理が終わるのを待つ。
 後ろの席では、ドイツ人だろうか?ドイツ語のような言葉で、近くのおっさんと大きな声で話をし始めた。
 このぐらいのバスだから、アフガンの時のようにはならないだろうとたかをくくっていたが、なかなか修理は終わらない。

   それどころか、助手はバスを離れて、相変わらず走っているバスを止めようと手を振っている。
 もう、7、8台は止めただろうか。
 乗客たちが大きな声で話をしている。
 何を話しているのか分からないが、どうやらパンクではなく、タイヤを留めているボルトが一二ヶ所破損したらしい事が判明した。

   とにかく良くアクシデントが起こる。
 俺のせいかも知れないな。
 俺が乗ると、常にアクシデントが起こる。
 楽しむように、アクシデントが起こる。
 どのくらいの時が過ぎただろうか。
 急ぐ旅でもない。
 何日かかろうが、別にどって事ないのだ。
 暗い空には、明日の天候を約束するかのように、綺麗に澄んだ月が我々を見下ろしている。

                       *

   一時間ほどのロスだ。
 ここからは、高地が続くのか、夜は冷え込むようだ。
 アフガニスタンの二の舞いだけはするなよと、シュラフをバスの中に持ち込んでいたのが正解だったようだ。
 シュラフの中に入り込み、座ったままの姿勢で眼を閉じる。

   バスの中の灯りが消えた。
 消燈の時間らしい。
 今まで外を見ると、自分の顔が映し出されていたバスの窓から、外の様子が少し見えてきた。
 バスは、北にカスピ海を望み、トルコ国境へとひた走る。
 カスビンを通り、タブリーズへ、そしてトルコ国境に近い”マク”と言う街に入るはずである。
 そうすればもう、すぐそこがトルコだ。
 こうして、夢を見ているうちに、バスはトルコへとまっしぐらに進んでいく。
 


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